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Pax Emancipation : ゲームレビュー

この惑星上の1/4を統べていた大英帝国においては、奴隷制廃止論などとても考えられないことであった。にもかかわらず、草の根の努力に啓発された何千もの署名を受けた議会への奴隷制度反対の訴状により、英国は1808年に歴史的な奴隷取引禁止令を発布した。英国は1833年から1843年にかけて奴隷制を廃止し、これに続く勇気ある活動家たちは、必要であれば武力を用いてでも、世界の奴隷制を終わらせることを決断した。ナポレオン戦争の最中でさえ、英国海軍は大きな犠牲を払って世界中の国々に対する奴隷廃止のための封鎖、政治的強制、経済的収賄、砲艦外交を繰り広げた。英国は何十年にも渡り単独でこうした活動を続けていたが、反奴隷制運動が西洋文明の道徳意識を席巻したことにより、1888年には最後の西欧国家(ブラジル)が奴隷を解放した。非西欧諸国においては、この戦いはその後も続けられた。21世紀の今日において、最後まで残された国々も奴隷を犯罪化した。本ゲームは、自由 と個人の権利 のためのこの世界規模の奮闘を扱うものである。
Pax Emancipation - A1. 歴史的背景

Pax Emancipation - Sierra Madre Games()

Pax Porfiriana(メキシコ革命)、Pax Pamir(グレートゲーム)、Pax Renaissance(ルネサンス経済)に続くPaxシリーズ第4弾。デザイナーはPhil Eklund.

啓蒙思想の発展を背景とし、18世紀末から20世紀初頭にかけて全世界に広まった奴隷制度廃止運動を、同運動を主導した大英帝国の立場で挑戦する協力ゲーム。3名までのプレイヤーは、議会急進派、宗教界(キリスト教福音派)、経済界(博愛主義的な貿易商&探検家)のいずれかの立場でゲームに参加します。

ゲーム開始時の大英帝国の威光は圧倒的で、自由貿易と博愛思想の障害となる有形無形の障壁を内政干渉を駆使して粉砕。現地政府などお構いなしに砲艦外交、植民、布教、交易に勤しみ、人権思想の普及とグローバル経済圏の樹立に邁進します。


◆マップと攻略目標

写真はVASSAL版のテストプレイキット。製品版と異なる点もありますのでご注意おば。10枚のカードで構成された地理的なマップと、6*2列(最上段は山札)のカードによるマーケットを使用するのはPaxシリーズ恒例のスタイル。そしてシリーズといいながら、ルールにほとんど共通点がないのもいつもの通りです。

Pax_emancipationmap_setup_201810130

マップの■が未開放の「奴隷」(200万人相当)で、プレイヤー色のミープルを乗せると解放された「自由民」となります。盤外の四角チットは、その地域を覆う思想統制(白帯)、経済的搾取(赤帯)、貿易統制(緑)を表した各種の「バリアー」。マップ間の境界に配置された船型トークンは、奴隷労働により生産された「血の商品」を扱う「奴隷商」。これら世界に蔓延する奴隷、バリアー、奴隷商を駆逐することが、本ゲームの各派共通の目的となります。

ちなみに本作における日本の状況は、Edoに3単位、Koreaに1単位の奴隷がそれぞれ存在。Sakoku Seclusion(鎖国政策)で世界経済から切り離され、Sonno Joi Ronin(尊王攘夷浪人)とSakoku Kansei Censors(鎖国検閲?)による思想制限、Tokugawa Shogunate(徳川幕府)とAgricultural Stipend(年貢?)による経済搾取を受けているという設定です。

※本ゲームではいわゆる鎖に繋がれた肉体的拘束による「奴隷」だけでなく、思想の強制や経済的搾取など、個人の自由に対する人権侵害全体を解消すべきものとして扱っています。このあたりは昨今異論のある方もいらっしゃると思いますが、興味のある方は120項目におよぶルールブックの脚注をご覧ください。


◆アクションとオペレーション

各プレイヤーは、自身の手番に2回の「アクション」を実施します。しかしこのアクションのほとんどは、ウォーゲームで言うなれば管理フェイズに相当し、勝利条件となる奴隷、バリアー、奴隷商に影響を与えられるものはありません。ここで必要となるのが、マーケットに配置されている思想家、運動家、社会運動を表した「イデアカード」です。

プレイヤーは「組織」アクションにより、マーケット内のイデアカードに自派のエージェント・トークンを配置することが出来ます。これは各種の運動や思想家を後援することを表しており、該当イデアカード記載された「オペレーション」の実施が可能となります。オペレーションには血の商品の交易船に対する封鎖作戦を実施する「海事」、奴隷を解放する「奴隷解放」「西欧化」、政治的にバリアーを撤廃する「参政権」ほかのアクションが含まれており、これをいかに活用するかがゲームの鍵となります。

さらに例えば「奴隷解放」の実施コストは配置されているバリアー数に依存するなど、「奴隷」「バリアー」「奴隷商」の各要素に対するオペレーションの難易度は、相互のに依存しています。盤面とマーケットに登場しているイデアから、どこから切り崩してゆくのは悩ましいパズルです。プレイヤー3派もそれぞれ得意としている目標は異なっており、プレイヤー同士の連携も重要です。

またオペレーションにはマーケット内のイデアを公知の概念として「グローバル化」して権利章典と一般意思の各「スプレー」に送る「訴訟」「国民投票」の両オペレーションが存在しています。これらはマップ上の目標攻略には直接関係がありませんが、後述の「革命」において重要となります。


◆革命

こうしてプレイヤー各派は、植民地化と内政干渉、砲艦外交により世界の奴隷制度を切り崩してゆきます。しかし当然ながら、社会の変革には反動がつきもの。毎手番に実施される「ヘイトロール」により、地域に残されたバリアーに応じた反動が発生。プレイヤーのエージェントや自由民が虐殺されるだけでなく、地域に無政府状態や反体制派が蓄積されていきます。これが一定の条件を満たすと、中国であれば太平天国の乱、西欧であればフランス革命など、該当地域に対応した革命が発生します。

発生した革命は、プレイヤーの介入で配置される革命派が一定数蓄積されることに加えて、その革命に対応するイデアの組み合わせが「スプレー」に配置されている場合に「成功」となります。革命の達成には、武力だけではなく市民を納得させる理念の構築が必要なのです。またプレイヤー派閥の意向に沿ったイデオロギーで終結した革命は、該当派閥にボーナス得点をもたらします。


◆大英帝国の凋落

革命の成功は、対象地域の奴隷の解放や産業革命の達成などの追加効果をもたらすほか、マップカードを裏返す「近代国家」へのアップグレードを発生させます。この近代国家が曲者で、地域の状況は革命成功の時点で固定されてしまいます。従って奴隷やバリアーが残された中途半端な革命成功では、社会が分断された差別的な国家が誕生してしまうのです。

英国の介入で啓蒙思想に目覚めた世界の各地域は、皮肉にも自己決定権にもとづく近代国家として次第にその影響下からは離脱。本作のプレイヤーは奴隷制度廃止運動史だけでなく、大英帝国の興亡史をたどることになります。そして世界が民族自決と文化相対主義に目覚めるタイムリミットまでに、どれだけの人々を経済的、知的奴隷の境遇から救うことができるかがゲームの目標となります。

最終的には自派の敗北フラグ(マップ上に自由民を16個以上配置、等)を回避できた各派の得点を合計。この合計得点により協力ゲームとしての勝敗を判定します。またゲームのモードとしては、ソリティアや得点を競い合う競争プレイも用意されています。


というわけでPaxシリーズの最新作は、これまでになくPhil Eklundの政治的姿勢をストレートにゲームに落とし込んだ作品となりました。異論のある方もあるかと思いますが、奴隷制度廃止は必然ではなく、歴史的にもこの時期でのみ達成可能なイベントだったというデザイナーの史観と、それにもとづくゲーム構造は非常に興味深いものでした。デザイナーの史観を読み取るのが大好物なウォーゲーマーとしては、ここまで語ってくれたらお腹いっぱい、というところです。和訳はいつにもまして大変な作業でしたが。


◆おまけ

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