2018年N村的ベストウォーゲーム
本記事は「War-Gamers Advent Calendar 2018」の12月4日分としてエントリーさせていただいております。
12月もまだ上旬ですが、今年の出物もボチボチ出そろったところ。今年も恒例の「2017年N村的ベストウォーゲーム」の時期がやってまいりました。
選考対象は例によってウォーゲーム界の流行や新作とは関係なしに、N村が「2018年に初めてプレイした作品」です。
過去分はこちらから→「年間ベスト」
ASAT: Orbital Combat - Paper Forge(→)
まずは闇のオンライン販売PnPウォーゲーム界からの伏兵。21世紀後半の地球周回軌道における、人工衛星/戦闘艇1機単位の宇宙戦闘ウォーゲーム。「バリアーなし、謎のビーム兵器なし、ワープドライブなし、反重力機関なし、宇宙人なし」という売り文句に惹かれ、話のネタになればと購入したところ、これが大当たり。「加速すると減速し、減速すると加速する」という軌道運動のパラドックスを、二次元平面ながらスマートに再現。またデザイナーの脳内垂れ流しの設定と、戦闘艇デッキプランを眺めるだけでも楽しい。DTP出版らしくルールにザルな部分も多々ありましたが、人柱諸氏のご協力で勝手ディペロップもほぼ完了。まさに谷甲州「軌道傭兵」という、ハードSF者のツボをついた作品になりました。
ちなみにデザイナーのAndrew Nelsonは、一部で話題のTable Air Combat(→)のデザイナーでもあります。PnP界侮りがたし。
Smolensk: Barbarossa Derailed - MMP(→)
Operational Combat Series 最新作。マップ1枚で1941年7月のスモレンスク戦を扱います。既存作はビックゲームばかりの東部戦線では初の1枚ゲームということで、手軽な入門作では?と期待する向きもありましたが、そこはやはり東部戦線。規模でいえばバルジ戦といい勝負で、やはり一筋縄ではいかない作品でした。
とはいえ既存作より取り回しが良いのも確かで、個人的にも初めて入手した東部戦線OCSとなりました。また「無謀に思えるソ連軍の反撃が、独軍を徐々に出血死させてゆく」という、近年の知見に沿ったデザインになっているのも素晴らしいところ。猿遊会でのセッションも、両軍にとって胃の痛いプレイとなりました。
Pax Emancipation - Sierra Madre Games(→)
Paxシリーズ最新作。舞台は18世紀後半から20世紀初頭までの全世界。啓蒙思想の広まりにより英国で始まった奴隷解放運動を、英国の議会、宗教界、経済界、それぞれの立場で全世界に広めることを目論む3人協力ゲーム。個人主義とグローバル経済を信奉するPhil Eklundの世界観をストレートにゲーム化した落とし込みが見物。その世界観の是非はともかく、プレイヤーたちの活躍で世界に人権思想が広がるほど、多文化主義が台頭して植民地帝国イギリスの影響力が低下してゆく、というゲーム構造が秀逸です。
また本作は近年の同社作品と同様、ゲームのメカニズムは各コンポーネントに記載されたアイコンにより処理され、テキストはすべてフレーバーです。しかしすべてのカードとチットには、歴史上の事件や人物を表すユニークネームが記載されています。淡々とアイコン処理でゲームを進めることもできますが、背景知識があればあるほど、ゲーム中に発生したストーリーに一喜一憂できるのもまた事実。昨今の作品からユーロゲーム風に見られることが多くなりましたが、やはりウォーゲーム文法のデザイナーなのだな、と実感した作品でした。
◆次点のみなさん
Bios: Megafauna 2nd(SMG): 今年前半にヘビーローテーションしていた本作は、旧版をより大きな視点でリメイクしたお気に入りでしたが、そろそろウォーゲーム警察に怒られそう&大英帝国興亡史との天秤で惜しくも選外。
John Company(SMG): こちらも大変愉快な経営ゲームでしたが、規制緩和システムの完成度から減点。ショートゲームはシンプルで良かったんですが。
「東大紛争」(ジブセイルゲームズ):定番のCOINシリーズからの伏兵。アレンジは見事だったのですが、やり込むまでは至らなかったため次点です。
◆2019年課題作
2018年の積み残しからは、「COIN: Falling Sky」をガリア戦記序盤戦に拡張する「Ariovistus」(GMT)が控えています。
2019年の予定作からは、GMTからは「COIN: Gandhi」に加えて、John Butterfieldの宇宙開発ゲーム「SpaceCorp」が待機中。
MMPからはOCS/BCS系列の新作が来年もあるか?GTSはまだ先になりそう。
SMGからは待望のリメイク「Bios: Origins」と新作「Pax Transhumanity」が。独自ブランドに移行した「Pax Pamir 2nd」も来年中にはリリースでしょう。
またハイブリッド戦争界隈からは、大御所Mirandaの「War in the Megacity」(OSS)。もうひとつMirandaからはバカ設定ソリティアの「Arc of the Kaiser's Last Raider」 といったあたりが期待のアイテムです。
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コメント
わたし的には1番はBios:Megafauna ですねかね〜。
あっという間に全滅していく様は涙と笑いを誘います。
2番手はASAT。加速すると低速に、減速すると高速になる事を上手く表現出来ている好ゲームです。
スモレンスクは2回しかプレイしてないので何とも言えません。そもそも東部戦線だし。
ジョンカンパニーも同様、パックスエマンシペーションに至ってはプレイしてないしf^_^;)
ま、そんな所で来年もよろしく!(まだ12月の坂戸例会が残ってるって)
投稿: Forger | 2018年12月 4日 (火) 08時46分
BM2は初代から一貫した「過剰な進化は袋小路」というコンセプトが良かったですね。でも今日の獲物にありつくためには、特殊化しないといけないこともあるんじゃ、という。植物と菌類の扱いにもう一工夫あれば文句なしでした。
Emancipationは共同でパズルを解くもよし、競争で煮え切らない史実を実感するもよし、というわけでやるのです。
投稿: N村 | 2018年12月 4日 (火) 19時05分