Arc of the Kaiser's Last Raider : 自宅会 2019/02/03
「ウォルフ艦長は、南海で行動するドイツ帝国海軍最後の巡洋艦であるSMSカイザーの甲板から双眼鏡をのぞき込んだ。無線はベルリンから送信された彼への極秘指令を受信していた【謎に包まれた失われた島、レムリアを発見し、ドイツを欧州大戦の勝利へと導く謎の超兵器を持ち帰れ】。どこか遠くのジャングルからはドラムの音が響き、霧に覆われた島の中で何かが蠢いていた……」
没!
こんなストーリーでは駄目だ。プロットは貧困だし、決まり文句が多すぎる。
あの雑誌の編集長から電話が来る前に、この小説を書き上げねば。私の競合相手であるテキサスのボブ・ハワードは、ニューイングランドのラヴクラフトの仲間であり、エドガー・ライス・バローズも彼なら何か面白いものを書けると思っているようだ。
さて、私も仕事に戻るとしよう。レミントンのタイプライターに新しい紙をセットし、コーヒーをもう一杯淹れて、タバコに火をつけこの原稿を終わらせるとしよう。締め切りが迫っているぞ!
Arc of the Kaiser’s Last Raider (One Small Step), ルールブック1.0章より
Arc of the Kaiser's Last Raider - One Small Step(→)
OSSフォリオシリーズ最新作。デザイナーは、同社のメインデザイナーであるJoseph Mirandaです。
※本作のルールブックは一貫して"Arc of the Last Raider"表記でタイトルが一致しませんが、ひとまず公式サイトのゲーム名に従います。
第一次世界大戦のインド洋におけるドイツ海軍の通商破壊戦を背景に、この南洋のどこかに隠された欧州大戦の行方を左右する伝説の秘宝を見つけ出す、極秘任務を帯びた独軍艦長の冒険……という設定の冒険小説のプロットを作る、1920年代のパルプフィクション作家をプレイする、というメタ構造の一人用ゲーム。
なんでこんな設定を思いついたんだ、という紛うことなきバカゲーですので、細かい設定に突っ込むほど野暮になりますので気を付けましょう。
とはいえゲームのコアシステムは、Decisin Gamesを中心にMrandaが長年手掛けてきたソリティアゲームを踏襲。プレイヤーは軽巡洋艦エムデンまたは仮装巡洋艦ウォルフを率い、喜望峰から青島に至るPtPのマップ上を航海。マップ上を移動するたびに「プロットカード」を引き、内容に沿ったイベントを解決。そして各地の港に潜入し、諜報アクションに成功すると「伝説の秘宝」の所在が判明。首尾よく秘宝のスペースに到着し、このカードイベントを解決すれば秘宝を奪取。マップ外に離脱して、ドイツ本国まで帰投できれば勝利となります。というわけで、伝奇的ミッションが追加されている以外は「ゲーベン 1914」を簡略化したような、至って普通のお使いミッション系ソリティアです。
そして本作では、この上に編集長(と読者)の不満を表す「プロットの陳腐度(The Plot Thin Index)」という要素を追加。本ゲームのデッキの中には「お約束の展開(Cliche)」という切り札カードが含まれており、プレイ中の様々な場面で危険なイベント回避や、リソースの補給に使用することができます。そしてこれを使用するたびに、前述の「プロットの陳腐度」が上昇。一定値に達すると原稿が突き返され、状況に関わらずプレイヤーの敗北となります。いくらパルプフィクション小説とはいえ、「南海の孤島の秘密基地」や「実は生きていたシュペー艦隊」を連発されるのはちょっと、というわけです。
またミッションが成功した場合は、設定を引きついで小説をシリーズ化(キャンペーンゲーム化)することも可能です。この場合、続編効果で初期リソースは増加しますが、「プロット陳腐度」の上限は巻を追うごとに厳しくなってゆきます。二番煎じでは読者はついてこないのです。また同梱の拡張ルールでは、乗艦として軽巡洋艦ケーニヒスベルクと水上機母艦サンタ・アナが追加されます。
実際のプレイは、実況結果をまとめておきましたがこんな感じに。
⚡️ "「皇帝陛下のヴォルフ号」シリーズ第1話「南溟に女王の秘宝を探せ」" https://t.co/8qChNOhCxL
— N村 (@enumura) 2019年2月3日
このプレイではルールを解読しながらでしたので3時間ほどを要しましたが、処理自体は単純ですので、分かっていれば1-2時間というところでないかと思います。またフォリオ規格で手軽な反面、フレーバーもほどほど。アートワーク自体は雰囲気が出ていますが、昨今のユーロ系ストーリーゲームのような重厚なシナリオはありませんので、行間を読む想像力が試されます。肝心のプロット陳腐度システムは、ディペロップが甘いのか、限界値設定が温すぎてうまく働いていないという感触。設定の半分以下のピーキーな仕様でプレイしてみることをお勧めします。
キャンペーンゲームを前提に、初回は温く、回を重ねる毎に急速に難易度が上がる模様。エピソード番号の数だけチェックポイント(Friendly Port)を配置する=行程がn倍になる=引かねばならないプロットカードがn倍になる。(2019/02/07追記)
というわけで良くも悪くも手軽なゲームですので、やってみたい方は例会でN村を捕まえてください。
◆エラータ案件
・Neutral/Allied Portは進入した次のターンには退去しなければならないが(13.3)、Neutral Portでの修理・補給を前提としたルール全般と矛盾する(修理・補給を実施すると移動できないため、実施即抑留となる)。Neutral Portは1ターンの猶予を与えるのが良さそう。
・Port Cardを引かねばならない港と、引かない港の双方にFriendly Portが登場する(8.44)。多分ひかない方が正解。
2019/02/07追記
・Clarifications and Errata so far (BGG→)
・上記のFriendly Portはは引くほうが正解。引かないのはNeutral Portのみ。
・Objectiveカードは初期配置で公開されるため(3.1-7)、ゲーム中に公開される前提の誤報ルール(17.8)と噛み合わない。恐らく当初は、最初は隠匿してゲーム中に公開する設定だったのだろうと推測。(2019/02/07追記)
◆プレイメモ
・Cargo SpaceをとらないCaptain's Gearは全部持っていけ。特にCruiser HandbookとBinocularsは役に立つ。
・最重要なShip RatingはSavvy. 先手を取れれば進も引くも自由。これを上げられるのはFirst Officer(有能)、Seaplane(すぐ壊れる)、Cruiser Handbook(便利)、Disguises(重い)。
・負傷者を治せないと詰む。Ship's DoctorかScientistsは必須。
・Power BoatがあるとPort Encounterを2回振れるので、秘宝発見率が高まる。
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