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The Nagorno Karabakh War 1992-1994 : 山田邸 2021/07/18

今月の山田氏との対戦は、ひさしぶりのModern War誌より。

The Nagorno Karabakh War 1992-1994 - Modern War #54()

山田洋行氏提供のModern War誌最新作。アゼルバイジャン内のアルメニア系自治区であるナゴルノ・カラバフ自治州をめぐる、アゼルバイジャンとアルメニアとの戦いをテーマとした作戦・戦略級ゲーム。ソ連崩壊でタガが外れた同地では、アルメニア系の独立運動が勃発。これをアルメニア系住民に対する民族浄化で弾圧したアゼルバイジャンに対し、隣国であるアルメニア軍の支援を受けたアルメニア系住民が反撃。勢いづいたアルメニア陣営が自治州の大半を制圧し、「ナゴルノ・カラバフ共和国」として独立を宣言するまで、1ターン3か月の全9ターンで紛争全体をプレイします。

※余談ですが本紛争で自治区からたたき出されたアゼルバイジャンによるリベンジ戦が、大規模なドローンの投入で知られる2020年のナゴルノ・カラバフ紛争となります。

Mw54-nkw-2021071809a

こうした背景から、両陣営ともユニットは自治州の民兵と本国の正規軍という二種類の部隊で構成されています。このうちプレイの主力となるのは、自治州の当事者である両派の民兵たち。これらは戦力は低いものの、自治州内の村々から低コストで動員される主力部隊です。特にこの紛争の主導権を握っていたアルメニア系民兵は、撤退するロシア軍から横流しされた装備により正規軍並みにユニットをアップグレードすることができます。対する両陣営の正規軍は額面戦力は高いもの、住民保護の名目でアゼルバイジャンに進入してきたアルメニア軍は攻撃に、軍の統制に問題のあったアゼルバイジャン軍は攻防の双方に、それぞれ大きな制約が課せられています。さらに両陣営に味方する勢力として、現地に駐屯していたロシア軍も登場。ロシア軍が登場するのは撤退が完了するまでの序盤戦のみですが、腐敗した現地部隊の暴走(おそらくは金銭による傭兵として)として、両軍のにランダムなユニットが加勢してきます。

※余談ですが戦闘で両陣営にロシア軍が登場した場合、ロシア軍同士の談合により、ランダムな陣営のロシア軍がすべて撤退してしまいます。これは酷い。

肝心のゲームシステムは、大隊規模ユニットに一般的な増援購入-移動-戦闘のシークエンス、強ZOC、メイアタック、戦闘比CRTというシンプルなもの。これに本紛争の両陣営の行動に大きくかわかる、民族浄化(ethnic cleansing)に関するルールが追加されています。

本作マップの村落や街は、それぞれアルメニア系、アゼルバイジャン系のいずれの民族が多数派であるかに基づいた色分けがなされています。こうした敵陣営の拠点で追加移動力を消費したり、戦闘による占拠や砲撃の対象となった場合、同へクスには「民族浄化」のマーカーが配置されます。これは該当陣営の支配や動員を無効化するほか、自陣営の受けた「民族浄化」の数は政治的な問題を引き起こします。例えばアルメニア側は救援すべき住民を失ったことによるサドンデス敗北が、アゼルバイジャン側には戦争指導に異議を唱えるクーデターイベントの発生が設定されており、この行方は勝敗を左右します。

本ゲームにおいては、敵性住民は付帯的損害の犠牲者として存在しているわけではない。敵性住民自体が攻撃目標なのであり、町や村を占領して民族浄化を実施すること自体が、このゲームの重要な要素となる。
デザイナーズノート:本ゲームは、こうした民族浄化という概念を容認するものではない。関連するルールは、民族差別を目的とした戦争が、どのような許しがたい結果を引き起こすのかを提示するために設けられている。-ルールブック1.0「イントロダクション」より

 

こうした明らかに倫理的に問題のある行為をゲームに取り入れること、特に問題行為によりプレイヤーが勝利に近づくようなシステムの実装については、昨今批判的な意見も見られるようになってきました。しかしプレイヤーの立場となる指導者たちの意思決定に関わる問題であれば、こうした要素を漂泊した「政治的に正しい」ゲームでは、むしろ現実の理解を妨げることになりかねません。ユーザーに対して不意打ちで倫理問題を提示しかねない映画やビデオゲームとは異なり、事前にプレイヤーがすべてのルールを把握する必要があるのはアナログゲームの欠点ではあります。しかし同時に、ゲーム内で取り上げられる問題点を事前に開示し、理解を深めることができる利点ともなります。デザイナーはこの特性を活用することで、デリケートな問題を避けて通らず、正面から意図するところを説いいただきたい。昨今のアナログゲームにもみられるようになってきた表現規制に対する、いちゲーマーの要望です。

余談が長くなりましたが、今回はナゴルノ・カラバフ共和国&アルメニアを山田洋行氏、アゼルバイジャンをN村が担当しての対戦を実施。本戦争の攻勢側となるアルメニア陣営は、ゲーム終了までに自治州のほぼ全拠点を制圧すれば勝利となります。

1戦目はルールミスが発覚し、早々に仕切り直し。そして続く2戦目は、民族浄化によるサドンデス敗北を警戒したアルメニア側が、緒戦から派遣軍全体を自治州内に投入。敵性拠点には目もくれず、重厚な拠点防御を展開。戦意に劣るアゼルバイジャン側は直接対決をあきらめ、ひとまず自治州全体を包囲封鎖するすることに専念します。これにより本国からの連絡線を維持できなくなったアルメニア側は、正規軍の活動に制約が課せられるとともに、民兵の動員力も低下。これでアルメニアの足を止めたアゼルバイジャンは、アルメニア側の拠点を分断するとともに、民族浄化をすすめた安全な後背地で民兵を動員。ゲーム半ばで身動きの取れなくなったアルメニア側の投了となりました。

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これはおかしいぞ?と喧々諤々の感想戦が始まり第3戦へ。ここで試されたアルメニア軍の戦略は、一旦自治州の半分を放棄した状態から、アルメニア本土と自治州との回廊制圧を優先。アルメニアから徐々に戦線を押し上げ、後背地のアゼルバイジャン拠点を浄化することで聖域を確保するという、史実通りの戦略です。今回はアゼルバイジャン側のゴリ押し反撃が何度か成功したことで、アゼルバイジャン優位の中盤で時間切れ終了となりましたが、大枠としては有効な戦略であることを確認。攻勢軸こそ南北と異なりますが、手探りでルールを追求した結果、史実準拠の戦略に誘導されるという好感触での感想戦となりました。

またN村としては、非常にシンプルなルールで「両陣営が入り組んだ状態から反乱軍を追い込んで締め上げる」というCOINのセオリーが再現できたことに感心。おそらくほとんどルールを変えずに、第一次中東戦争などにも移植できるのではないかと思います。

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