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Matrix Game, Kazhdyy Gorod : GGG 2022/08/14

以前より一部ウォーゲーマーの間で話題となっていたものの、実態がつかめず二の足を踏んでいた「Matrix Game」。先日その筋のサイトを流していたところ、入門者向けの簡易版が公開されているとの情報が。早速読み込んでみたところ予想外にシンプルな内容でしたので、突貫でコンポーネントを準備。交流のあるサークルではウォーゲーム、TRPG両刀で、こうしたゲームに耐性の高いGGGにて人柱会を開催してきました。

Matrix Game - Chris Engle ()

最近ウクライナや台湾情勢など、国際関係・紛争解決の分野で「〇〇シミュレーション」などと呼ばれる研究レポートが発表されることが目に付くようになりました。「Matrix Game」はこうした政策シミュレーション、ウォーゲーマー的には図上演習に相当するセッションで使用されるシステムのひとつ。名称には「Game」を冠してはいるものの実際には勝敗を競うわけではなく、問題解決のブレーンストーミングに用いられるツールです。2015年ごろには米軍でも導入され()、その筋のウォーゲーミングの記事では時折名前が登場します。

この「Matrix Game」が登場したのは1992年。Chris Engleが「プレイヤーが個人から国全体まで、あらゆるものをロールプレイ可能なシステム」として考案した「ゲーム」システムです。基本的にはいわゆるTRPGの形式で、プレイヤーが望む効果とそれを実現するためのアクションを宣言し、判定を実施し、結果を反映して次の行動が議論される、という手順でセッションが進行します。「個人から全体まで」という大胆なお題目からは詳細なルールや判定方法が予想されますが、非ゲーマーにプレイさせることを想定した「Matrix Game」のルールは、よく言えばシンプル、悪く言えば非常に大雑把なシステムです。

まずアクションを宣言したプレイヤーは、そのアクションで実現したい効果と、追い風となる要素を列挙します。例えば今回のセッションでは、不況と失業に悩む地方都市の市長プレイヤーが、以下のようなアクションを宣言しました。

アクション「長年停止している郊外の開発地区で、外資を導入した再開発計画を立ち上げる」

効果:この地域の雇用を改善する

〇現地法人、現地雇用を条件とする。
〇先の改革派リーダーとの会談で、雇用改善事業への協力を約束させている。
〇会談の成功がジャーナリストのアクションにより国外メディアに広まっており、国外からも注目が集まっている。

これに対して、各プレイヤーは予想されるマイナス要素を議論し、列挙してゆきます。

×郊外の森林地帯では、謎の武装勢力が活動しているとの風評がある。
×市長の支持基盤である地元産業界が反発する。

これらの長短各要素は、プレイヤー同士の議論を経て、最終的にゲームマスターである「ファシリテータ」により採否を決定された後、長短の要素数を相殺してダイス修正値とします。上記の例では〇3個、×2個ですので、成功方向に一段階分の修正値が得られます。判定はこの修正値を適用したダイスロールによる一発解決。今回の簡易版では、2d6ロールに最終修正値の+1を適用するだけ(ロール結果7以上で成功)。ゲームの設定によっては「選挙の判定方法」「対地攻撃の成功率」「患者の増減数」などの特別ルールがアドオンされていますが、根幹となるシステムはこれだけです。

そして「Matrix Game」をプレイする目的ともなるのが、この判定における長短要素に関するプレイヤー同士の議論です。これは判定システムの中核であると同時に、各参加者(およびファシリテータ)が問題に対するそれぞれの知見を披露しあう、ブレーンストーミングとなります。また通常のブレーンストーミングとは異なり、各プレイヤーはゲーム内の何らかの個人・組織の立場で参加していますので、当事者意識から議論が活発化する効果が見込めるというわけです。そして最初にも書きましたが、この「ゲーム」の目的はある問題に関する未来予想(例:台湾進攻は成功するか?)やプレイヤーの勝敗を競うことではありません。こんな大雑把なシステムですので、予想精度を云々するだけ無駄ですし、そんなものはファシリテータの提供する設定次第です。セッションの目的は、問題に対する知見を集め、参加者間で共有するこの議論自体にあります。

こうした特性から、ゲームシステム自体は簡単なのですが、プレイヤーはそれなりに選びます。参加者に求められる資質は「TRPGという手法にに理解がある」「紛争や国際関係などテーマに対する一定の知識がある」「担当陣営にかかわらず客観的な知見を積極的に披露できる」といったところ。また意見が大きく割れた場合でも、双方の立場で複数の意見が挙げられるよう、ある程度の人数が参加していることが望ましいため、これが可能なプレイヤーをそろえる、というところが一番のネックです。

とはいえ古参ウォーゲーマーであればTRPGや紛争についての最低限の知識はあるかと思いますので、最初の2点は問題なくクリアできるでしょう。言ってしまえば、ウォーゲーマーがいつもプレイ中に考えている脳内作戦会議を、公開で多人数でやるだけ。マルチゲームをベテラン(ファシリテータ)がインストしながら多人数で相談プレイしてるようなもので、人数さえそろえばウォーゲーマーとの親和性は非常に高いツールです。


Kazhdyy Gorod, Introductory Matrix Game - Tom Mouat ()

というわけで、今回使用したのは「Matrix Game」の入門編であるこちら。舞台はソ連崩壊にともない独立した架空国家「ベルシア」、ロシア国境に近い人口25万の地方都市カズディ・ゴロド。ベルシアは資本主義に転換したものの、思うような成果は得られず21世紀に。経済と生活水準は低迷し、失業者が街にあふれ、工場地帯ではデモ隊がスラムや廃工場を占拠。また地理的にはベルシアにあるカズディ・ゴロドですが、住民の大半はロシア語話者で、少数派のベルシア人の支配体制には政治的にも不満が蓄積。さらに郊外の森の中では、ロシア系の分離主義者が密かにキャンプを開設しているらしい……という危険球。ちなみにモジュールの最新版は2015年。製作者のTom Mouatは、英軍のコンピュータ・シミュレーションシステムの運用にも携わったという、その筋の専門家です。

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今回はプレイヤー3名、ファシリテータ1名での人柱会。ゲームに登場する6名のキーパーソンのうち、3名はNPCとしてファシリテータ(N村)が担当。プレイヤーには「デモ隊を率いる穏健改革派」「保守派のベラシア人市長」「分離派を率いるロシア人」を担当していただきました。

序盤にゲームをリードしたのは改革派リーダー(S木氏)。初期配置の労働者デモに加えて、中産階級の支持を得るべく住宅街でもタウンミーティングを開催。首都や西側のメディアにコネのある改革派ジャーナリスト(NPC)が、この動向を密着取材。また早急なデモ隊の排除を市長に却下された野心家の警察署長(NPC)は、ジャーナリストの護衛を名目に監視のための特捜班の投入を進言。これは認められ、改革派とジャーナリストの周囲には私服警官の影がちらつくことになります。

こうした地道な活動に手応えを得た改革派は、地元ラジオ局の番組に出演。番組は成功し、穏健で理知的な改革派リーダーは中下層市民から広く支持を集めます。この成功を見た市長(YMD氏)は、先手を打って改革派とのラジオ討論会を企画。行政主導での対策を約束(具体案は追って発表との空手形)することと引き換えに、デモ隊の解散を促します。また郊外の森に潜む武装勢力を懸念する市長は、市内に駐留する機械化歩兵中隊の隊長(NPC)に、民兵の動員と装備の整備を指示。この失業者対策も兼ねた民兵の動員は成果をあげたものの、ソ連時代の骨董品である車両、重装備の整備は遅々として進みません。

こうして穏便にデモを終了させ時間を稼いだ市長でしたが、改革派リーダーから市長に「改革の英雄」報道を乗り換えたジャーナリスト(先の改革派密着取材のニュースを西側メディアに流したが、出目が悪くスルーされた)との会見に応じたところから、事態は急転。早急な経済再建計画の言質をとられ(ジャーナリストの取材がクリティカル)、急遽プロジェクトを立ち上げる必要に迫られます。

ここで市長がぶち上げたのが、前述の外資による再開発計画。しかしメディアには知られていませんが、ひたすらロシア軍時代のコネで兵士を集めた分離派リーダー(INB氏)は、すでに民兵を上回る規模の部隊を森の中に集結させていました。プロジェクトの致命傷ともなりかねない、この武装グループの実態把握と国境監視のため、市長は中央にヘリコプターを含む駐留部隊の装備更新を要請。これは認められ、市と民兵隊長とのあいだで森林地帯への調査出動のための準備がはじまります。

さらに一旦は集結したはずのデモが、何者かの扇動によりリーダーの統制を離れて先鋭化する兆しが。この扇動の黒幕は、デモの鎮圧という派手な功績を足掛かりに政界進出を狙う警察署長。扇動者は署長の私兵となっていた警察の特捜班でしたが、署長はなかなか尻尾を掴ませません。

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またそのころ分離派のキャンプには、ひそかに越境したトラック隊が到着。トラックから降ろされた木箱には、対戦車ロケットや迫撃砲など、歩兵用重火器が……というところでちょうどお昼となり、ドラマシリーズなら第一部完という体で今回のセッションは終了。ゲーム内では2か月が経過した想定で、プレイ時間はインスト込みの3時間ほどでした。

想定通り、ウォーゲームとTRPGの両刀プレイヤーが集まるサークルだけに、非常にスムーズかつ白熱したプレイとなりました。また「Matrix Game」らしい議論としては、ゲーム設定には明記されていないベルシアの全国メディアと地方メディアや、住民の階層による言語の違いがクローズアップされることに。なるほど、こういう議論や知見が得られるのが「Matrix Game」のキモなのか、と納得したセッションでした。

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