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「ゲーミング・ザ・ゲーム」と「ゲーマーモード」:WGAC2022

先日の「コネクションズ・ジャパン」のパネルディスカッションでの余談として、防衛研究所の登壇者から「自衛隊の図演に統制官として参加した際に、幹部がゲーム感覚で気軽に部隊をやりくりする場面に遭遇し、ゲームでも命令の重みのような要素の必要性を感じた」というエピソード紹介が紹介されていました。
個人的に「自衛隊でもゲーマーモードが!」とニヤリとしたエピソードだったのですが、そういえば「ゲーマーモード」の話はツイッターでしかしていない。というわけで「War-Gamers Advent Calendar 2022」にかこつけて「ゲーマーモード」とそれに関する論文を紹介しておきます。

「トレーニングや教育にゲームを使用することにおける問題点のひとつは、プレイヤーが学習目標に集中するのではなく「ゲームをゲーム化(game the game)」してしまうことである。このような姿勢を表す言葉として「ゲーマーモード(Gamer Mode)」という用語を提案する。ゲーマーモードに陥ったプレイヤーは、ゲームに勝つためには最適だが、教育の目的からはずれた目標を達成しようとする。(後略)」

Frank, A. (2012). Gaming the Game: A Study of the Gamer Mode in Educational Wargaming. Simulation & Gaming, 43(1), 118-132. https://doi.org/10.1177/1046878111408796

 

先の図演のエピソードに挙げられているようなオッズを上げるための理不尽なムーブや「最後だアタック」などなど。この要旨にあるような「ゲーマーモード」については、歴戦のウォーゲーマの皆さんであれば大なり小なり心当たりがあるのではないかと思います。

この論文では市販のPCゲーム「The Operational Art of War」(2005)をシミュレーターとして士官学校の学生にプレイさせ「ゲーマーモード」に陥った事例を収集。そうなった原因を考察したものです。例えばこんな感じ。

戦線を突破した敵の偵察部隊が、味方の無防備な砲兵に迫るという状況。士官候補生チームは、敵部隊と砲兵のあいだに手近な補給部隊を壊滅前提で滑り込ませるというムーブを選択。
ノーマン「この部隊をこっちに向かわせよう」後方の工兵を指す。
ペーター「いやそこじゃない。ここ(偵察隊の隣)で食い止めよう」
ノーマン「え、そこ?」
ペーター「ここを塞げば砲兵に届かなくなる」
ノーマン「そこに間に合うのはこの部隊しかないぞ」補給部隊を指す。
ペーター「まずいな、それは補給部隊か」
ノーマン「マジかよ」
ペーター「こんな部隊じゃ蹴散らされるだけだ」
ノーマン「……だが足止めにはなるな」
ペーター「わかったよ……そこに送るよ」

 

これはひどい。まさに「勝利だけを追求したゲーマー」という事例です。余談ですがN村自身、先日とあるゲームで「補給ユニットを足止めに使う作戦は有効か」という議論をしたばかりでしたので、人のことは言えません。

とはいえこれは、どんなユニットでも足止めになるゲームデザインと、兵站ユニットの損失にペナルティがない勝利条件の設定の双方が悪い。その筋の商用ウォーゲームデザイナー呼んできてという案件で、論文の考察でもゲーマーモードを生み出す三つの原因のひとつ「ゲームデザインが悪い」として挙げられています。ちなみに残る二つの原因に挙げられているのは、スコアや勝敗を追求するという「競争へののめり込み」と「過去のゲーム経験」からこうプレイすれば良いんだろう?という思い込み(手癖プレイ)です。

また本論文の著者は、続編としてマップ上の重要拠点に「占領VP」のような明示的な得点を導入した場合と、状況(あの街を確保しろ)だけ提示した場合のプレイスタイルを比較する論文も発表しています。結果は得点が明示されているとプレイはより攻撃的で、上記の例のように部隊を捨て駒に使うような傾向も増加したそうです。

Frank, A. (2009). Difficulties in maintaining theme focused frameworks in educational wargaming. Presented at the 40th Annual Conference of the International Simulation and Gaming Association (ISAGA 2009).

というわけで、商用ウォーゲームでのディペロップとしては珍しくない話題ですが、半ばプロである士官候補生にプレイさせた場合も報酬構造があると「ゲーマーモード」に寄ってしまう。教育目的で使う場合は、評価点(勝利条件)の設定には気を付けようね、というお話でした。まことにごもっとも。

 

◆余談その1

・Wargaming Esoterica【Wargaming Column】ゲーマーモードとカジュアルモード ()

本記事を書き上げてから思い出したのですが、ちょうど10年前にこの話題で市川丈夫氏にコラムを書いて頂いたのでした。
開き直ってこのままいきます。

◆余談その2

・政策シミュレーション国際会議「コネクションズ・ジャパン」聴講録 ()

冒頭のネタはこちらから。こちらも公開しておきます。

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