Interstellar : ゲームレビュー
今秋のSierra Madre Gamesブランドの新作「Interstellar」の翻訳に一応の目途が立ったことから、テスト用のTTS版での動作確認を実施。おおよそのところが把握できましたので、忘備録を兼ねてレビューしておきます。
Interstellar - ION Game Design / Sierra Madre Games (→)
亜光速宇宙船による数十年にわたる太陽系近傍恒星の探査と植民の協力ゲーム。デザイナーはお馴染みのPhil Eklundと、HF4Aから「High Frontier」チームに加わったJustin Greyの共作です。オリジナルは10年ほど前に、無印「High Frontier」と拡張「High Frontier Colonization」に、別売りの「Interstellar Poster-Map」を組み合わせた拡張ゲームとして登場したもの。当時のレビューはこちらから。
High Frontier Interstellar : GGG 2013/08/11 (→)
今回もリリース待ちのHF4Aモジュール4(Exodus)と連結可能な内容ですが、単体プレイも可能な独立作品としてリメイク。なのでタイトルに「HF4A」が付かないとか、製品コードもHF4A系(SMG28-4.X)とは別系統(SMG29)という誰得情報があります。
改めてゲーム内容を紹介すると、各プレイヤーは恒星間探査・植民船「エクソダス号」に搭乗する12名のうち、各2名を率いる派閥「イデオロギー」(個性、自由、名誉、統一、権威、平等)のひとつとしてゲームに参加。1ターン12年の道中に発生するさまざまなトラブルを共同して切り抜けながら、居住可能な天体を発見してコロニーを築くことを目指します。この道中の技術、科学的成果と、コロニーに到達できたクルー数による得点で勝利レベルが決まる、というのが基本的なゲームです。ただし研究などで進化した人類「ポストヒューマン」が誕生した場合、協力体制が崩壊して勝敗はイデオロギーごとの達成度を競う個人勝利モードに変更されるという設定があり、純粋な協力ゲームではないのがゲーム構造上のポイントです。
亜光速宇宙船による恒星間探査がテーマとなりますので、タイムスケールも1ターン12年(ダズイヤー)とゆったりしたもの。順当に航海が進んだ場合、最も近傍のプロキシマ・ケンタウリ(植民的には微妙な赤色矮星)に5ターン60年、その隣のケンタウルス座アルファ星(悪くない)に6ターン72年で到達できる、という規模感です。当然ながらクルー(恒星間放射線に耐えられるよう改造されたサイボーグ)には加齢のルールがあり、ストレスによるペナルティが存在しない場合でも、78歳以降は老衰死の可能性が設定されています。これでは出発から到着まで、生存できるかも微妙なところです。
このため探査船内には冬眠装置兼、凍結胚の冷凍装置が搭載されており、基本的にほとんどのクルーはこの中の凍結胚として太陽系を出発。航海中に人工子宮で順次育成され、任務を引き継ぐというのが基本的な流れとなります。もちろん覚醒中のクルーが妊娠、出産し、世代交代することも想定されています。また担当の全員が冬眠中(または死亡中)のイデオロギーは、派閥の理念に従う人格エージェントである「アバター」としてゲームに参加。アバターは学習能力に欠けスキルが成長しないこと、死亡事故などが免除される不死の存在であることを除き、人間クルーと同等の能力と権限が与えられているという設定です。
ゲーム的なシステムは、毎ターン自派のワーカー(クルーまたはアバター)を船内作業や研究・開発などの「セル」に割り当て、割り当てられた任務の成否をダイスロールで判定するというもの。この任務は功績の稼げる華々しいもの(主に研究・開発系)から、必要だが見返りの少ないインフラ維持系のもの(推進系の核融合炉や電力の管理)までさまざまです。さらに妊娠と育児も、ゲームシステム上はこうした任務のひとつとして扱われます。独り立ちするまでの教育込みの、12年分の育児休暇というわけです。システムとしては一種のワーカープレイスメントで、指揮官に選出されたイデオロギーは、長期的な世代交代を見据えたクルーの配置に頭を悩ませることになります。
また研究・開発系の任務に成功した場合、参加したクルーには該当分野のスキルを高める「強化」が与えられます。これはフレーバー的にはサイボーグの身体強化インプラントなのですが、これを一定数獲得したイデオロギーは前述の「ポストヒューマン」に進化して船内秩序にひびが入る、という設定です。ひとつのイデオロギーに功績を集中させない、クルー同士のバランスも重要ですので、ますます船長の胃痛の種はつきません。
こうして有望な恒星系に到達すると、系内天体の状態を確認する「探査」がおこなわれ、大気と水資源の両チットの組み合わせで植民可能な「ハビタブル」天体が存在するか否かが判定されます。大気の状態に不足があればナノマシンの投入で、水資源に不足があれば星系内の氷小惑星を投下する「ドロップストーン」で、それぞれテラフォーミングを試みられます。こうして居住可能な惑星に到達できれば、生き残ったクルーが降下し、地球外コロニーを建設したものとして達成度を判定。ゲーム終了となります。運悪くテラフォーミング可能な天体が存在しなかった場合、再加速して次の有望な恒星系を目指すことになります。
※基本的には恒星のハビタブルゾーン内の大気と水のある地上生活が可能な天体を狙ってゆきますが、手持ちの技術次第では、近年の系外惑星探査でも話題となっている亜恒星の惑星の地下海洋にコロニーを築くことも可能です。
探査船に与えられた恒星間植民ミッションの流れはこのようなものですが、本作ではここに「女性」という重要な、そして物議をかもすリソースが設定されています。本作の設定上、10年単位、時には100年を超える航海中の恒星間放射線を完全に遮蔽することは難しく、凍結状態で保存された胚もこの例外ではありません。また想定される人工子宮技術には子宮内膜細胞の提供が不可欠であるとして、この提供元となる女性の存在が人口再生産には必須という設定となっています。したがって女性クルー(と凍結胚)が全滅してしまった場合、ハビタブル天体に到達しても植民地を築くことができません。このため第一世代の寿命より遠い星系を狙う場合、適切なローテーションで女性クルーを世代交代させてゆく必要があります。
このあたりの世代交代を含め、イデオロギーに応じた婚姻形態も含めた船内規則が世代宇宙船SFやジェンダーSFとしては面白ポイントではあるのですが、人によってはここで繰り広げられるラディカルというか危険球のジェンダー感は受け入れられないものがあるでしょう。この点はオプションではない標準ルールですので、手を出そうという方はご注意ください。
※例えば権威派イデオロギーが船長を務めている場合、クルーの配置だけでなく婚姻を強制的に割り当てられるほか、船長のパートナーは離婚や船長への異議申し立てが禁止されます(家長父性)。対して個性派イデオロギーの下では、複数のパートナーと婚姻関係を結ぶことができます(複婚)。等々。
このように10年単位のスケールで宇宙船と船内社会をメンテナンスしながら、リソース(燃料と女性クルー)が枯渇する前に植民可能な天体を求めて太陽系近傍の恒星間空間を放浪する、というのが本作の基本的な流れです。プレイ時間は最初の経由地で決着するなら2時間程度と、最近の例にもれず比較的軽めです。
そして「Bios Earth」シリーズとして「HF4A」との連結ルールが用意されているのはもちろん、続く植民世界での現地生態系との闘いをテーマとした続編「Arraival」が予告されています。副読本としては脚注でアンダースン『タウ・ゼロ』が挙げられていますが、ポストヒューマン絡みではベンフォード&ブリン『彗星の核へ』、森岡『星界の紋章』シリーズ、最近の作品ではチャイコフスキー『時の子供たち』、オイェバンジ『ブレーキング・デイ』あたりがお勧め。というわけで、その筋の方の参戦をお待ちしております。
◆いつもの和訳中の小ネタと愚痴はこちら
「Interstellar」和訳小ネタ集 https://t.co/5rR8XRhhB4 このシリーズのまとめはこちら。冬から始めてもう夏である。
— N村 (@enumura) July 13, 2023
◆テストプレイのAARはこちら
このプレイでは最も近いアルファ・ケンタウリ星系を目指しましたが、道中の難所への対処にリソースを割かれ、運よくハビタブル惑星に降下できたものの、成果に乏しくコロニーは「ジリ貧」(縮小再生産でじきに消滅する)に終わりました。
恒星間探査・植民ボードゲーム「Interstellar」和訳確認テストプレイ - RBX https://t.co/389LN6Qb7J 一旦休憩。ここまでのまとめはこちら。— N村 (@enumura) September 18, 2023
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