Pax Pamir : GCS 2015/10/31,11/01
ナポレオンの没落により、イギリス東インド会社は喜望峰から広東のマーケットまで、ひとつながりの交易圏を獲得した。インドはこの広がる帝国のネットワークの中心に位置しており、欧州と極東の市場を結ぶ帝国の流通が諸港を通り抜け、イギリスの見えざる手がこの亜大陸の莫大な富を支配していた。しかしこの「帝国の中枢」は、安泰というわけではなかった。
アメリカの西部開拓者を上回る勢いで、ロシア帝国はシベリアの森林とアジアのステップを越えて拡張していた。この世界最大の国家の拡張主義は、長年のうちにインドの大英帝国の富へと影を伸ばしてきた。中央アジアでは、測量士、冒険家、そして実業家や政府のエージェントなど、この地域の複雑な政治情勢に関与すべく送り込まれたすべての人々の思惑が交錯した。そしてパミール山脈の影のもとで、19世紀から現代まで続く帝国主義の線引きを決定するゲームが開催されたのである。
Pax Pamir - ゲームの目的
Pax Pamir, Power & Empire in Afghanistan, 1823-1845 - Sierra Madre Games(→)
Sierra Madre Games, 2015年の新作その1。19世紀のアフガニスタンを舞台に、現地の有力者としてイギリス、ロシア、そしてアフガニスタン首長国の三つ巴のグレート・ゲームを泳ぎ渡り、勝ち馬の帝国と同盟した第一人者となることを目論むマルチプレイ・カードゲーム。
ゲームシステムとしては、混迷するメキシコ革命の政局をあつかった旧作、Pax Porfiriana(2012)を発展させたシステムを採用。アフガニスタンに関わる諸勢力を現すカードを競り落とし、入手したカードの能力を駆使して勢力の拡張を図ります。
写真中央、6枚づつ2列に並べられたカードが、これらカードの供給源としてオークションの対象となる「マーケット」です。プレイヤーはここから任意のカードを購入アクションで入手することができますが、カードの価格は左端(写真では天地逆のため右端)から順に0,1,2,3,4,5ルピーと設定されています。さらに購入でスペースが空いた場合は、残るカードは左端(価格の安い方向)へと詰められ、右端にはデッキから新たなカードが補充されます。従って今は高額なカードも、プレイが進むに従って価格は下がってくるはず。しかし他のプレイヤーの思惑もありますので、どこで見切りをつけて購入するかが悩みどころです。
また購入に支払ったルピーは、購入したカードの左側(安い方)のカードに1ルピーずつ配置されます。こうしたルピーの載ったカードを購入した場合、載せられたルピーも同時に獲得することができます。売れ残りの微妙なカードしか入手できなくても、資金面では逆転のチャンスがあるわけです。
こうして入手したカードは、経済【街道】、政治【部族】、諜報【スパイ】、軍事【軍隊】の4つのカテゴリーに分けられています。そして手札からプレイした際には、アフガニスタンの主要な6箇所の地域をあらわすマップ上に、対応する【】の駒を配置してプレイヤーの勢力拡大に用いられます。
またアフガニスタンの情勢は、上記のカテゴリーに対応する4種類の体制のひとつが設定されており、カードプレイにより変動します。そしてデッキに4枚含まれる「トップル」カードをいずれかのプレイヤーが購入した時点で、勝利判定を実施。帝国ごとに忠誠を誓うプレイヤーの情勢に対応する駒を集計し、単独過半数を占める帝国が存在すれば、同帝国がアフガニスタンの覇権をにぎったものとしてゲームは終了。この帝国に対して、もっとも影響力を持つプレイヤーが勝者となります。
従って勝利するためには、特定の帝国に肩入れして影響力を集めつつ、同帝国の勝ち筋を見越して勢力を拡張。トップルカードの出現を見極めて、伸ばしたカテゴリーに対応する体制へとアフガニスタン情勢を転換させる必要があります。
さらにプレイを通じて、忠誠対象となる帝国を乗り換えることも可能です。また忠誠対象以外の帝国に対しても、スパイを派遣することにより影響力を獲得することができますので、二股外交は当たり前。そのほか他プレイヤーの場札に対しては、スパイ活動により引き抜きや暗殺を仕掛けることも可能。マップ上の公然とした勢力拡張と、盤外での外套と短剣の両面でグレート・ゲームが戦われます。
そしてカードを用いたアクションについては、前作は例外処理とカードテキスト特例の多さから、お世辞にもプレイアビリティが良いとは言えませんでした、。しかし本作ではこの点が大幅に改善。すべてのカードアクションにアイコン処理が徹底されており、同社のゲームにしては珍しくカードテキスト処理が一切存在しません。このためプレイはPax Porfirianaと比べると格段に軽く、プレイ時間も半分程度に短縮されています。またメキシコ革命以上になじみの薄い19世紀アフガニスタンですが、カードのアイコンさえ押さえれば、特に問題なくプレイ可能なのは助かりました。
このあたりの改善は、実質的に本作のデザイナーであるCole Wehrleの功績のようです。油断すると例外処理やカードテキストを気楽に突っ込んでくる、Eklundの問題点を的確にフォローしたディペロップは、個人的には非常に好印象。Cole Wehrleのその他の作品としては、BGGにDTPながら三国志というこれまた珍しいテーマのゲームが登録されていますが、このメジャーデビューを機会に今後の活躍を期待したいデザイナーです。
というわけで、今回は土日の2日間で計3回のテストプレイを実施。1回目の5人戦では、初期にイギリス忠誠3名、ロシア1名、アフガン1名というイギリス一強の情勢でゲーム開始。伸びるイギリスを必死で食い止める露&アフガンに対し、イギリス3位のプレイヤーが見切りをつけてアフガンに寝返り。これで2対2となり、軍事的に英軍と拮抗するところまで巻き返したアフガンが、英国利権の街道を次々と除去。すかざす体制を経済戦争に移行させ、第3トップルで街道利権の過半数をおさえたアフガニスタンの勝利に終わりました。プレイ時間はインスト込みで3時間ほど。インスト、全4回のうち第3トップルでこの時間ですので、Pax Porfirianaからずいぶん改善されました。
また日曜の2戦目は5人戦が第1トップルで事故終了の英国勝利。3戦目の3人戦は、N村のポカミスにより第2トップルでこれまた英国勝利と、Foreigner氏の連勝に終わりました。
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