Zurmat : GGG 2022/05/08
カブールから南に数時間、東側に峻険な山々を変えたズルマット地方は、住民のほとんどがパシュトゥーン人で占められており、アフガニスタン政府も表面的にしか支配していない騒乱の地である。夜の暗がりの中、タリバン部隊は砂塵の立つ街道を自由に動き回り、カブール政府に協力するものには誰であれ脅迫の手を伸ばすのである。
そして今、アメリカ軍の歩兵中隊がこの地域の要衝の近くに前進作戦基地(FOB)を設営した。アフガニスタン陸軍のパトロールが始まり、空には無人偵察機があらわれ、そして時折の爆音のあとには爆発が発生した。一方パキスタンの山岳地帯では、聖域の洞窟に潜んだ髭面の男たちが、こうした連合軍の影響力増大に立ち向かう決意を固めていた。ラバで、ラクダで、オートバイで、武器や弾薬がズルマットへと運び込まれた。今年は平穏には済まされないだろう……。
Zurmat: Small Scale Counterinsurgency - Catastrophe Games (→)
アフガニスタンの辺境の渓谷を舞台に、アフガン政府軍とそれを支援する連合軍(米軍)、そして渓谷に潜むタリバンとの「小さなCOIN」を描くウォーゲーム。元々はアフガニスタン派兵でアフガニスタン国家警察(Afghan National Police)の大隊長顧問を務めた本作のデザイナーが、当時の経験をもとに作成したゲームで、数年前からBoardGameGeekで制作レポートが上がっていたものです。しかし昨年のカブール陥落で「このご時世でこれを発表するのは如何なものか」と弱気になったところ、「今こそ世に問うべき」という声があがりクラウドファンディングへ。急転直下で無事出版されたという、時事のゲームでもあります。
ゲームの舞台となるのは、毎回組み合わせが異なる11枚のタイル(エリア)で表現された渓谷地帯。1ターン/1月で10か月をプレイ。両陣営のプレイヤーは、毎ターンに以下の5種類のアクションから1種類を選択して実行します。
・リクルート:支配エリアへ、アフガン政府軍、タリバン部隊の動員。
・宣誓:影響力比較によるエリア支配の変更。
・建設:学校(支配にボーナス)、陣地(戦闘ボーナス)の配置。
・パトロール:敵のいないエリアの移動と影響力配置。
・攻撃:敵エリアへの移動と戦闘。
これらのアクションはカードとして管理され、写真ようにプレイヤーボードの数字の下に1列に並べて配置されます。あるアクションを選択した場合、選択したカードが置かれている数値がアクションの効果となります。例えばリクルート[3]は3ユニットの配置、建設[1]は学校か陣地を1個配置、といった具合です。そして使用したカードは[0]のコラムへ。残ったカードは数値の大きな方へ、右詰めでコラムを移動します。単純に[4]のコラムは[1]のコラムの4倍の効果が見込めますが、そこまで育てるのは大変です。時にはカウンターとして、拙速に攻撃[1]を切る必要もあるでしょう。ちなみにデザイナーズノートによりますと、Civilization: A New Dawnにインスパイアされたシステム、とのことです。
またゲームは最長で10ターンですので、各アクションが回ってくるのは平均2回。さらに「冬の到来」イベント次第で7ターンまで短縮される可能性がありますので、1手の割合は比較的重め。とはいえ10-7アクションでゲームは終了しますので、プレイ自体は非常に軽快です。今回も1プレイ1時間ほどでプレイできました。
こうして既定のターンが経過したところで、ゲーム開始時に密かに選択しておいた勝利条件カード(2枚)の達成状況で得点を争います。達成条件は「〇〇のアクションを3回以上実施する」「敵より多くの〇〇アクションを実施する」が中心ですが、なかには「すべての芥子畑タイルを支配する」といったものも。無難なのは「アクションを3回以上」系の達成条件ですが、総アクション数を考えると意図は漏れがちですし、得点もそこそこ。このあたりの駆け引きが勝敗の争点となります。
今回はS木氏をお相手に、タリバン、連合で裏表を2戦。タリバンを担当した1戦目は、最前線で連合の侵入をブロックし、後背地で「リクルート3回」「建設3回」を回して戦わずに勝つ、という方針でのプレイ。条件自体は両者とも達成できたのですが、イベントのコンボで前線の支配を崩され支配タイル数で逆転。両者同点のタイブレークは支配タイル数で、攻撃系の勝利条件で押し込んできた連合の勝利。
なるほど、ある程度は攻める必要がある&無難な条件ではタイブレーク止まりと学習した2戦目は「敵より多くパトロールを実施」と「リクルートを3回」を選択。今度は序盤にパトロールで壁を作り、リクルートで集めた部隊でタリバン領域を封鎖することに成功。このまま逃げ切れるかと思いきや、中盤に芥子畑の支配数で勝つとボーナス得点が得られるイベント「芥子の収穫」が登場。今回の芥子畑は封鎖したタリバン領域に広がっていたため、慌てた連合は中途半端な兵力でタリバン領域へ侵攻。しかしこれが待ち伏せとIED攻撃で返り討ちにあい、主力(ヒットレート1.5倍&防御効果付き)かつ補充不可能な米軍が大敗。この勝利と豊作で勢いづいたタリバンを押し返せず、大差がついての惨敗に終わりました。
ルールに少々粗削りなところや、バランスが崩れると巻き返せないといった問題はありますが、モジュラーボードと勝利条件選択で毎回展開が異なるため、手軽に「もう一戦」ができるのはよくできたゲームです。デザイナーはすでにイラクを舞台にした次回作に着手しているとのことですので、興味を持たれた方は要チェックです。
・今回のプレイミス
攻撃OPでは最低1か所で戦闘を実施する。移動のみの実施は不可。
VPは「達成した勝利条件カードの☆」「達成したイベントカードの☆」「終了時の支配タイル数」の合計。
冊子版追加ルール。「自手番の任意の時点で、戦術カード1枚を捨てることで任意の2枚のOPカードの位置を交換できる」
2010年代アフガニスタン 、ズルマット州の寒村。米軍に支援されたアフガニスタン政府軍が、民生活動のための基地を建設した。 pic.twitter.com/9co6LBGUch
— N村 (@enumura) May 8, 2022
こちらは和訳作業中のメモ。
Zurmat: Small Scale Counterinsurgency 着手しました(行動宣言) https://t.co/nWcmMqlgpm
— N村 (@enumura) October 20, 2021
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