Pax Hispanica - レビュー&AAR : GCS 2025/01/25
年を越してようやく国内に入ってきたPAXシリーズの最新作。夏に公開した和訳を引っ張り出し、到着翌日に人柱会を開催してきました。
Pax Hispanica - ION Game Design / Sierra Madre Games (→)
Phil Eklundによる「Lords of the Spanish Main」(2006, SMG)のセルフリメイク。17世紀のスパニッシュ・メイン地域(カリブ海周辺のスペイン勢力圏)を舞台に、プレイヤーはスペイン、ネーデルランド、フランス、イングランド、クールラントの冒険商人としてゲームに参加。新大陸の植民地を独占したスペインの保護貿易体制に風穴を開け、植民地と伝道所を築き、異教徒の先住民を教化してキリスト教徒に市民化し、植民地の労働力が奴隷から市民へと転換する時代の流れを駆け抜けながら、立身出世や理想社会の実現を目指します。ゲームシステムとしては、マーケットで購入したカードでのアクションとタブロー形成と、イデオロギー別の複数の勝ち筋(新大陸独立(植民者)、小国分裂の混沌大陸(海賊)、旧大陸派遣戦争の戦費供給源(王党派)、奴隷解放国家(伝導))というあたりが「PAX」シリーズ的文脈。例によって「いつもの要素もあるけどルール的には別ゲーム」なシリーズ作品です。
◆ゲームの流れ
各ターンでは、まず新大陸の植民地に労働者を確保。自国市民が存在すれば問題ありませんが、不在なら同エリアの市民(キリスト教徒の先住民&移民)を雇用。市民労働者が枯渇していれば、同エリアの部族サイトから奴隷を誘拐してきます。最初から飛ばしてきました。
ちなみに市民労働者を雇用するには資金が必要ですが、産物が生産されると労働者は賃金を受け取れる互助的な関係になります。対する奴隷労働者は無料で確保できますが、産物を生産すると過酷な労働に使い捨てられてしまいます(除去)。ちなみに労働者を確保できない植民地は消滅し、奴隷の供給にも限りがありますので、安定した植民地経営を目指すプレイヤーは、必然的に市民労働者の育成を進める必要があります。こうして労働者が確保できた植民地には、生産物をあらわす「宝箱」が登場します。
植民地の経営が片付いたら、4種のデッキからカードを競り落とすオークションを実施します。この際、デッキと勝利条件に対応した「哲学ボード」上の2軸4種(植民者、海賊、王党派、伝道)の専門軸のうち、いずれかに位置しているプレイヤーは、対応するデッキからオークションなしで無料でカードを引くことができます。
オークションでカードを入手したら、次は手札のプレイへ。このプレイにより、先の哲学ボード上のポジションが変動し、植民地や伝道所の設置、先住民の教化、船舶や爵位を入手するなどのアクションが実施され、プレイヤーのタブローが形作られます。またここで入手できる船舶には、雇用した船長の個性と立場である4種の「合法性」が記載されており、次の航海で実施できるアクションに関わります。
◆航海!
船を入手したら、お待ちかねの航海へ。本作ではあるプレイヤーの船舶スタックである「艦隊」は、「欧州」を出発してカリブ海に入り、カリブ海を一筆書きで航海して欧州に帰還する、という航路をたどります。この欧州からカリブへの移動は丸1ターンを要します。カリブの航海では、植民地を巡りながら産物を回収。この場合は海流に乗って同ターン中に欧州に帰還できます。
そしてここで問題になるのが、艦隊の旗艦に船舶(船長)の「合法性」(略奪者、密輸商、コンキスタドール、私掠船)です。例えば合法的な取引ができない「略奪者(海賊)」は、自国以外の植民地の「宝箱」は攻撃で奪い取る必要があります。対する「密輸商」は、他国でも賄賂を払うことで宝箱を積載できます。スペインに雇われた「コンキスタドール」は、スペイン領であれば無料で財宝を積載できますが、他国からは略奪が必要です。そして合法的な海賊ともいえる「私掠船」は、平時は貿易船の体で自国・他国を問わず宝箱を積載できますが、戦争が勃発すると略奪者同様に他国植民地からは攻撃して奪い取る必要があります。
◆スペインの内海
こうして財宝を積み上げた艦隊が欧州に帰還すると、財宝が換金されます。この際、母国のひも付きであるコンキスタドールと私掠船の場合、上納金が差し引かれるため手取りは少なくなるかわりに、母国の政策に関与することでスペインの保護貿易体制をあらわすパラメータである「重商主義」の値を操作することができます。この値は手札の上限や、1枚のカードで実施できるアクション数のキャップとなっており、値が高ければ高いほどカリブ海でプレイヤーが好き勝手に行動できることになります。ゲーム開始時の重商主義の値は中庸ですが、カリブにはスペインの植民地のみが存在する圧勝状態。プレイヤーの手数が少なければ、スペインの勝ち逃げが可能です。スペインはこの状況を固定するべく保護貿易の強化を、スペイン以外のプレイヤーたちは母国の対スペイン政策に働きかけることで、スペイン一強のカリブ海に風穴を開けることをもくろみます。
◆海賊!
また航海の際に、欧州に帰還せず「海賊行為ボックス」(カリブの秘密拠点)に移動することで、海賊行為のチャンスをうかがうこともできます。ここに艦隊を置いたプレイヤーは、他のプレイヤー艦隊がカリブを航海する際に、手持ちの「海賊拠点カード」と一致する海域で迎撃を仕掛けることができます。これで勝利すれば、相手の積み荷を奪うことができ、その足で欧州へ帰還することもできます。自力で生産できなければ奪い取ればよいのです!
◆PAX的勝利条件
こうしてゲームが進行するなか、各プレイヤーは自身の選択した哲学に対応した勝利条件を目指すことになります。例えば一世紀早い新大陸の独立を目指す「茶会勝利」には、重商主義の値を上回る数の植民地で市民の反乱を発生させる必要があります。またラス・カサスをはじめとする伝道師の目指した「奴隷解放勝利」では、マップ上のすべての奴隷を除去する必要が、海賊天国を目指す「エル・パトロン勝利」ではカードで得られる爵位(名声)が、新大陸を本国の欧州覇権のための資金源とする「太陽王勝利」では指定数の財宝を本国に上納しなければならません。
というわけで、総体としてはデッキからのオークションで植民地や艦船を購入し、カリブ海を一筆書きで航海しながら産物を回収する、という「Lords of the Spanish Main」の基本構造に、PAXシリーズのタブロー形成とロール別勝利条件のシステムを積んで、今風に全体を造り直したという格好になっています。
◆人柱会
というわけで、今回は3名(フランス、クールラント、ネーデルランド)でのお試し人柱会を開催。今回は一強のスペインをNPCとした、少人数推奨設定でのプレイです。
序盤の各陣営は、イエズス会で伝道路線のフランス、植民地開拓のクールラント、海賊のネーデルランドという順当な展開。ネーデルランドN村は最初に海賊船を投入したのですが、貿易の制限がきつく、他のプレイヤーが船舶を投入していない序盤は使い勝手が悪く、早々に旗艦を私掠船に変更。私掠船は平時は貿易船として角を立てずに立ち回れるため、スペイン植民地の産物輸送を請け負って荒稼ぎ。この資金で海賊路線「エル・パトロン」の勝利条件となる爵位を競り落とし、サドンデス勝利にリーチをかけます。
ちなみにこの間、奴隷労働に頼るBOTスペイン植民地は、消耗する奴隷の補充に周辺部族を次々と誘拐。プレイヤーたちもこれをフォローしなかったため周辺部族が枯渇をはじめ、ゲーム中盤には植民地の1/3が労働者を確保できずに消滅する惨状となっていました。これがブラック労働!
などとカリブの労使関係が激変するなか、植民者に肩入れしていたはずのクールラントが、スペイン本国お抱えのコンキスタドールに転身するという乾坤一擲のムーブに。このクールラント人コンキスタドールは、毎ターンの航海で新大陸の財宝を次々とスペインに上納。慌てたネーデルランド海賊艦隊が妨害に乗り出しましたが、時すでに遅し。この豊富な軍資金でハプスブルク家が三十年戦争に勝利し、功臣筆頭となったクールラント陣営の「太陽王」勝利となったのでした。
プレイ時間はインスト込みの3時間ほど。いろいろと初見の齟齬はありましたが、感触はまずまず。次回はスペインも登場する4-5人設定を試してみたいところです。
◆メモ
拠点カードの捨札(D3e):マーケット・カードと違って売れない。捨てるのみ。
海賊行為からの移動(D4b):最初のアクションを実施したい海上ゾーンから移動を開始。
奴隷労働者の誘拐(E2a):反乱状態ゾーンでは実施不可。布教(聖書)から先住民が誘拐された場合、該当の聖書は除去される(殉教ルール)。厳しい。
「奴隷(Slave)」の定義:用語集の先住民(Indigenous)にある。植民地に配置されているか、カーゴとして輸送されている先住民(白ミープル)
1604年、カリブ海。スペインの牙城に、フランスとクールラントが伝道所を開設。 pic.twitter.com/Ppl6wLJxQL
— N村 (@enumura) January 25, 2025
| 固定リンク
「LotSM/PH」カテゴリの記事
- Pax Hispanica : SoGC 2025/03/16(2025.03.16)
- Pax Hispanica : GGG 2025/03/09(2025.03.10)
- Pax Hispanica : 山田会 2025/03/02(2025.03.02)
- Pax Hispanica : GCS 2025/02/23(2025.02.23)
- Pax Hispanica - レビュー&AAR : GCS 2025/01/25(2025.01.25)
コメント